CES視察報告:知財活動の考察

・CES2019

 

 

CES(Consumer Electronics Show)は、毎年1月に、全米民生技術協会(CTA)が主催する電子機器の見本市である。主に、ラスベガス(ネバダ州)で開催される業界向けの見本市ではあるが、近年では、電子機器一般に加えて、人工知能、3Dプリンタ、IoT機器、VR/ARなど第4次産業革命に関連する商品・サービスの紹介が増えている。

展示会には多くの新製品が出品され、プロトタイプも多いことから、新規性を要件とする特許制度を見据えたアプローチが必要となる。

CES2019は、2019年1月8日から1月11日(現地時間)までの4日間で開催された。参加国数は、150カ国以上、出展社数は約4,500社となる。

 

 

・CES2019年のテックトレンド

CESの主催であるCTAのスティーブ・コーイング氏らがテックトレンドセッションで紹介したCES2019のトレンドは主に以下の8つ。

 

写真:PRONEWSより引用(https://www.pronews.jp/special/20190108235028.html

 

5G

①スマートホーム(コネクテッド&インテリジェンス)

②人工知能

③IoT

④テレビ(8K、QLED、字幕)

⑤VR/AR

⑥⑤自動運転

⑦デジタルヘルス

⑧レジリエントテクノロジー

 

・CESと我が国のスタートアップ企業

CESでは、これからの世界を変える最新のテックの最前線が紹介されているが、我が国からも経済産業省が仕掛ける「J-Startup」(http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180611003/20180611003.html)に認定された企業などからの出展がなされた。

写真:J-Startupブース

 

・スタートアップ企業と知財戦略

スタートアップ企業と大企業では組織文化、意思決定ルール、機動力、資金調達手法、など差異が多い。知財という観点でも、これらスタートアップ企業独特の生態系にフォーカスした知財サービスを提供している特許事務所が増えている。

 

本報告書では、CESに出展されたJ-Startup企業からいくつかをピックアップし、特許取得の状況や、各社の知財戦略について分析した。

 

・J-Startup企業について

2018年から経済産業省の試みとして有識者が推薦したスタートアップ企業を「J-Startup」として認定し、海外展開も含めた官民一体として集中的にサポートする試みが始まった。

この背景には、政府による「企業価値又は時価総額が10億ドル以上となる、未上場 ベンチャー企業(ユニコーン)又は上場ベンチャー企業を2023年までに20社創出」という目標が掲げられていることに起因する。

日本では約1万社のスタートアップが日々新しい挑戦をしているが、世界市場で活躍している企業は多くない。これからの我が国の成長を維持させるためには、世界市場の中で勝てるスタートアップ企業を生み出し革新的なビジネスモデルを生み出す必要がある。そのために、経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラムが「J-Startup」である(https://www.j-startup.go.jp/)。

 

・J-Startupパビリオン

ジェトロは、CES2019において、スタートアップ出展ゾーンである「CES Eureka Park」にジャパンパビリオンを設置し、J-Startupに認定されたスタートアップ企業のCES出展を支援した。このパビリオンでは、世界中の企業関係者との商談機会が生まれることを狙い、日本のスタートアップ企業のグローバル展開を加速させることを目的としている(https://www.jetro.go.jp/events/iib/a12fc22613195f47.html)。

J-Startupパビリオンに出展した企業が紹介する商品/サービスの特徴としては、いわゆる要素技術に関するもの少なく、既存技術をもとにそれらをうまく組み合わせ新しい用途として商品/サービスとして提案しているものが多かった。

これら企業がどのような特許活動を行っているのか、特許の出願・取得状況(現時点での公開情報に限る)から分析を試みる。

 

 

 

・株式会社ispace

「株式会社ispace」名義で出願されている特許は以下の8件である(調査時点の特許かつ公開されているものに限る。以下同じ。)。

 

発明の名称

公報番号

要約

探査機、探査機の部品の製造方法及び探査機製造方法

WO18-030368

走行可能な探査機であって、車輪と、当該探査機が進行可能な方向に向けて配置された第1のカメラと、当該探査機が進行可能な方向以外の方向に向けて配置された第2のカメラと、を有し、第1のカメラ及び/または第2のカメラのレンズの向きが水平よりも下方に向けられており、第1のカメラの視野内及び/または第2のカメラの視野内に、車輪が含まれている。

輸送方法、輸送船、輸送船の製造方法、ランダー、航行方法、ランダーの部品の製造方法、ランダー製造方法、着陸方法、監視方法及び燃料補給方法

WO18-030367

地球低軌道または静止トランスファ軌道から、目標の軌道または目的地まで輸送船を電気推進で推進する第1の工程を有する。

探査方法、探査システム、探査機、水素供給方法及び画像処理方法

WO18-030366

衛星、小惑星、または惑星において天然資源を探査する工程と、探査により検出された天然資源を取得する工程と、取得された天然資源を貯蔵する工程と、を有する。

ロボット及び把持構造体

WO18-173250

ロボットは、脚またはアームと、脚またはアームの端部に設けられた把持構造体と、を含む。把持構造体は、複数のかぎ爪と、一端部がかぎ爪の一つと連結され且つ弾性変形可能な複数の弾性部材と、複数の弾性部材を支持する支持体と、を有する。

探査システム、探査方法及び探査機

WO18-029841

太陽電池が設けられ当該太陽電池で発電された電力を供給する第1の探査機と、第1の探査機から供給された電力を用いて天然資源を探査する第2の探査機と、を有する。

探査機

WO18-029840

走行可能な探査機であって、車輪と、当該探査機が進行可能な方向に向けて配置された第1のカメラと、当該探査機が進行可能な方向以外の方向に向けて配置された第2のカメラと、を有し、第1のカメラ及び/または第2のカメラのレンズの向きが水平よりも下方に向けられており、第1のカメラの視野内及び/または第2のカメラの視野内に、車輪が含まれている。

輸送方法、輸送船及び輸送船の製造方法

WO18-029839

本発明は、輸送方法、輸送船及び輸送船の製造方法に関する発明である。本発明は、地球低軌道または静止トランスファ軌道から、月遷移軌道まで輸送船を電気推進で推進する第1の工程を有することにより、輸送船を搭載する発射装置の打ち上げ先の軌道によらず、輸送船の設計を共通化することができる。このため、量産化により輸送船の製造コストを低減することができる。また、地球低軌道または静止トランスファ軌道から目的の軌道または目的地までは化学推進用の燃料を要しないため、化学推進用の推進剤を減らすことができ、打ち上げコストを低減することができる。

探査方法、探査システム及び探査機

WO18-029833

衛星、小惑星、または惑星において天然資源を探査する工程と、探査により検出された天然資源を取得する工程と、取得された天然資源を貯蔵する工程と、を有する。

表:株式会社ispaceの公開公報

 

8件とも、国際出願(PCT出願)を利用しており、出願当初から海外での権利化を見据えた出願戦略を採用していることがわかる。

 内訳としては、探査に関する出願が4件、輸送方法に関する出願が2件、その他が2件となっている。

 

例えば、WO18-030368の請求項1の記載は以下となっている。

走行可能な探査機であって、車輪と、当該探査機が進行可能な方向に向けて配置された第1のカメラと、当該探査機が進行可能な方向以外の方向に向けて配置された第2のカメラと、を備え、前記第1のカメラ及び/または前記第2のカメラのレンズの向きが水平よりも下方に向けられており、前記第1のカメラの視野内及び/または前記第2のカメラの視野内に、車輪が含まれている探査機。

 

請求項1では、特に惑星等での用途に限定はしていないが、明細中の記載によれば、月又は惑星上における探査機の輸送コストを減らすための探査機の小型化に関する言及がある。したがって、請求項1では、小型化を行うための基本的な構造について記載している(ただし、権利範囲としてはかなり広い記載となっているため、このままの形で特許化されるとは限らない)。

展示会などで、探査機自体を展示する場合、これら構造自体は外部から視認が容易であり、新規性を喪失してしまう可能性がある。そのため、構造に特徴を持つ発明については対外的にお披露目する前に特許出願をしておく必要がある。

 

図:HAKUTO-R 最新ランダーおよびローバーデザイン(ispaceHPより引用:https://ispace-inc.com/jpn/news/?p=713)

 

 

・株式会社電玉

国内ではそれほど話題になるイメージの無い「けん玉」だが、競技人口は国内だけでも300万人、世界にもファンが増えその市場はグローバルになっていると言われている。

株式会社電玉は、けん玉とコンピューターゲームを連動させることで、けん玉人口の拡大を図る。

写真:デジタルけん玉「DENDAMA」とゲーム画面

 

「株式会社電玉」名義で出願されている特許は以下の2件である(調査時点の特許かつ公開されているものに限る)。

 

1件(特開2017-113486)はすでに特許が成立している。2件とも、国際出願を行っており、国内だけではなく、海外への権利化を意識していることがわかる。

 

発明の名称

公報番号

要約

遊技機及び遊戯システム

特開2017-113486

【課題】所定の遊戯所作について成功しているかどうかだけではなく失敗したか否かも含めて正確に判定でき、種々遊戯ルールへの対応が可能な遊技機提供すること。【解決手段】少なくとも一つの遊技機本体と、該遊技機本体の所定位置に配置することで遊戯を行うことができるように構成された少なくとも一つの遊技機子機とからなる遊技機であって、上記遊技機本体の所定位置に上記遊技機子機が位置した場合に遊戯成功と評価できるように、上記遊技機本体及び上記遊技機子機の少なくともいずれか一方に両者の位置関係を把握する位置把握手段が設けられており、上記位置把握手段が、電気的変化によるセンシング機器からなることを特徴とする、遊技機。【選択図】図1

遊技機及び遊戯システム

WO17-110775

【課題】所定の遊戯所作について成功しているかどうかだけではなく失敗したか否かも含めて正確に判定でき、種々遊戯ルールへの対応が可能な遊技機提供すること。【解決手段】少なくとも一つの遊技機本体と、該遊技機本体の所定位置に配置することで遊戯を行うことができるように構成された少なくとも一つの遊技機子機とからなる遊技機であって、上記遊技機本体の所定位置に上記遊技機子機が位置した場合に遊戯成功と評価できるように、上記遊技機本体及び上記遊技機子機の少なくともいずれか一方に両者の位置関係を把握する位置把握手段が設けられており、上記位置把握手段が、電気的変化によるセンシング機器からなることを特徴とする、遊技機。

表:株式会社電玉の公開公報

 

 

 

・株式会社Genics

株式会社Genicsでは、CES2019において次世代全自動歯ブラシを展示した。

 

「大学研究室発・ロボットベンチャーGenics、世界最大級の家電展示会「CES2019」にて、開発中の次世代型歯ブラシを展示!」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000040567.html

 

「株式会社Genics」名義で特許を調べたところヒットは0件であった。

しかし、創業者の氏名を「発明者」として再調査したところ、下記の特許がヒットした(出願人は名義は「学校法人早稲田大学」)。

 

発明の名称

公報番号

要約

口腔ケア装置

特開2017-164328

【課題】使用者に対する種々の安全対策を施した口腔ケア装置を提供すること。

【解決手段】口腔ケア装置10は、使用者の上下の歯Tで咬んだ状態で保持されたマウスピース部11の動作により使用者の口腔ケアを行うようになっている。口腔ケア装置10は、マウスピース部11に設けられ、マウスピース部11が保持された際に歯の表面に接触する研磨用部材と、研磨用部材を歯に接触させた状態で相対運動させる歯磨き動作を行うための歯磨き動作手段と、マウスピース部11に作用する使用者の咬合力を検出可能な咬合力センサ26と、咬合力センサ26で検出された咬合力に応じて、歯磨き動作手段の動作制御をする動作制御手段37とを備えている。

表:株式会社Genicsの公開公報

 

創業者が早稲田大学在籍中から手掛けていた研究でもあることから、出願人は大学にした経緯があるものと思われる。なお、現時点で国際出願は行われておらず、優先権を主張可能な期限も過ぎているため、国内のみの出願と思われる。

 

 

 

・株式会社Shiftall

株式会社Shiftallが提供する、瓶ビールの在庫管理及び自動配送システムに関する特許文献は見つからなかった。

瓶ビールの特性やビジネスモデルから生まれる技術的特徴を見出すことができれば、そこを差異点として、特許取得を行うことができる可能性があり、他社による参入障壁としての特許取得を行うことができるかもしれない。

図:DrinkShiftのサービス概要

(Shiftall HPより引用:https://shiftall.net/ja/archives/84/

 

・展示会と特許出願との関係

CESのような見本市・展示会などに試作品等を出展する場合には、特許法における新規性・進歩性との関係に注意しなければならない。出展する時より前に、特許出願を行っている場合には問題ないが、ひとたび展示してしまった場合は、その展示している事実がその後の特許出願の審査において新規性・進歩性否定の根拠となってしまう場合がある

(一定の条件下、例外が認められるケースもある)。

 

したがって、自社が独自に開発した技術について、特許権の取得を行う場合には、できる限り展示前に特許出願を終えておく必要がある。

 

少なくとも、上記4社のうち3社は出展前に出願を済ませている(株式会社Shiftallについても、特許出願が未公開になっているだけという可能性がある)。

 

 

・海外における特許取得について

日本スタートアップ企業の多くは予算等の関係から日本への特許取得のみで終わり、海外への権利化を行わない場合がある。しかし、市場を世界に見据えた場合、海外における技術的な参入障壁の武器として特許権は有用である。展示会で新しい技術を紹介した結果、そのアイデアを海外企業に模倣されてしまい、いざその国に進出しようとした際に、特許権が無いとなると、市場参入のハードルが上がってしまう可能性がある。

 

日本に基礎出願を行っている場合には、出願日から1年以内であれば国際出願(PCT出願)を行うことができる。PCT出願を行うことで、その後1年半の間に、海外における権利化を基礎出願を行った日付を確保しつつ行うことができるため、この制度を利用することで、海外へのスムーズな権利化が可能となる。

 

株式会社ispaceや、株式会社電玉は、海外における特許取得の可能性を見据えてPCT出願を活用しており、海外市場への布石を図っている点ものと思われる。

 

スタートアップ企業によって、特許取得の方針は異なるが、世界市場を見据えている企業においては、国際出願を利用した特許出願戦略を積極的に行う姿勢が見て取れる。

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